どうして分かってくれないんだろうなと、結局のところ最後まで「私の一番そばにいて、私を助けろ」と言っていた兄を思い出しながら、雪弥は自分の白い手を見下ろした。

「………………戦うのを直に見たのは初めてなのに、拒絶もしないしなぁ」

 そう独り言を口にして、不意にそうでもなかった事を思い出す。母に連れられて屋敷に通っていた頃、幼い二人と一緒に誘拐されそうになった事があったのだ。


――ッ、雪弥止まれ! 俺も緋菜無事だ、だから『殺すな』っ!


 ふと、当時ブチリと切れて、よく覚えていなかったそんな一瞬が脳裏を過ぎっていった。車を壊しながら『持ち上げた』ところまでは、覚えているのだけど。

 そう考えたところで、雪弥は蒼慶(あに)繋がりで「あ」と思い出した。

 昨日、何も考えずに蒼緋蔵低を出た後、一度も携帯電話には触れていなかった。音とバイブ機能を切って上着の内側に入れていたそれを、ぎこちなく少しつまんで取り出そうかどうしようか逡巡していると、ナンバー1が気付いたような表情を浮かべた。