「僕に助言? かなり胡散臭い笑顔が気になるが――なんだ、言ってみろ」
「君に良き女の相が出ている。近々、出会えるかもしれないね」

 その途端、足を止めたのが馬鹿だったと言わんばかりに、宮橋が片手を振って再び歩き出した。

「生憎、僕は気紛れな『猫のからかい』に引っかかるほど暇じゃない。そんな戯言は忘れるよ」

 スパッとした物言いは少し冷たい。先程よりも速く歩いて行く彼を追いながら、雪弥は礼も言っていないのにと思って、彼女に向けて小さく頭を下げた。

「君って奴は、そう言う時はとことん気にせず忘れてくれるよなぁ」

 小さく手を振り返した猫が、そう独り言のように言った。

「君、忘れたのかね。人は、自分の事は()えないものさ」

 だんだん離れていく中で、続けられたその声が、まるで愛想のいい猫の鳴き声みたいによく聞こえた。

          ◆◆◆

 その男は、とても優しい目をしていた。

 柔らかく碧眼を細めて、自分が守ろうとする人達と愛しい世界を眺める。それでいて迷いなく、その時代には珍しかった西洋の剣を握って部隊軍を率いた。