昨日、雪弥は久々の休みを使って、約二十年振りに本家である蒼緋蔵邸を訪れていた。来月の次期当主就任式を控えた長男の蒼慶が、蒼緋蔵家副当主の座に『腹ちがいの弟・雪弥』の名を上げた件について、本人にはっきり断るためである。

 蒼慶は蒼緋蔵本家の長男で、愛人の子である雪弥の腹違いの兄だった。今年で二十八歳。西洋人のような長身に、赤みかかった髪をした美男子だ。

 次期当主となる事が決まっている彼は、一族のとある本を手にしなければならなかった。それに付き合って兄の目的が達成出来たのは良かったものの、一つの騒ぎが起こって、雪弥は『実家』でも殺しを行ってしまった。そして、彼のそばにいられないと思って屋敷を出た。

 そもそも自分が、彼の弟としてそばにいられるはずもないだろう。昔も今も「愛人の子」と一族から嫌われ、今は特殊機関の「ナンバー4」としてある。

 家族の平和と平穏を守りたいのだ。

 だから、自分はあそこに相応しくない――のだとは思う。よくは分からないのだけれど、多分、何かが彼らと違っているのだという感覚を薄らとは感じている。