建物の間を進んでいくと、通りの人々の声が鈍く響いてくるばかりになった。右に進み、左に進み……と、どんどん奥へ行くのに一行に道路側に出る気配がない。

 なんだか似たような風景が何重にも続いている気がした。どの建物もこちらに背を向けていて、それでいてざっと見回してみても、恐らく全て五階以上といったところだ。

 雪弥は少し不思議に思って、カラーコンタクトで黒くされている目できょろきょろとした。先程までいた表の通りが、どれも都心らしい新しい建物が目立っていたせいもあってか小さな違和感を覚えた。

 夏らしい生ぬるい空気は感じない。足元にしっとりと絡み付いてくる風は、あまり日差しが届かない場の、こびり付いた湿気を含んだ独特の匂いが薄らと漂っている。

 次の角を曲がったところで、不意に場が開けた。

 そこには一本の大きな木がはえていて、縁取るようにしてベンチ状に囲まれてあった。さわさわと揺れる生い茂った緑は立派で、雪弥は一瞬気を取られた。