「ただの『子の骨』の影響を受けたにすぎないからね」

 その時、宮橋が歩道脇のビルの間へと進んだ。車も通れそうにないじめじめとしたそこに踏み込んだところで、一度足を止めて肩越しに振り返る。

「ついておいで、雪弥君。僕を見失わないようにね」

 事前の忠告なのか、単にからかわれているのか分からない。ニヤリと不敵に笑い掛けられた雪弥は、これまでの事、そしてこれから先を思って溜息がこぼれた。

「はいはい、分かりました。――余計な質問はするな、指示には従え、ですよね?」
「よく分かっているじゃないか。忘れていないようで何よりだよ」

 ついでに確認してみたら、なんだか適当な口調で言葉が返ってきた。

 面倒だから思考を投げただけの感じもするな、と独り言を言いながら、宮橋がビルの間に出来ている道を進み始める。まさにその通りだった雪弥は、呆れと感心がない交ぜになった気持ちで「はぁ」と曖昧に言ってその後に続いた。