蒼緋蔵家の番犬 3~現代の魔術師、宮橋雅兎~

「僕は優しくなんてないさ。署の人間にそう尋ねたら、ほとんど仰天される意見だぞ」
「? あなたを知らない大多数の人間ではなくて、あなたを知っている人間に訊いてみないと分からない事じゃ――」

 そこで雪弥の言葉は途切れた。

 目の前を進んでいた宮橋に、振り返ると同時に素早く頭を鷲掴みにされてしまっていた。ギリギリと締めてくる手と、凍えるような美貌の睨み付けを数秒ほど見つめ、もしやと雪弥は遅れて思う。

「…………あの、もしかして怒ってます?」
「鈍い君にも伝わってくれたようで助かるよ。ぽけっとしているのに少数派の正論をあっさり言うものだから、君の口から出たのも予想外で――正直イラッとした」
「それ、単に図星の照れ隠しなのでは……?」
「その思考は口の中に隠しておくべきだぞ、雪弥君」
「はぁ、すみません」
「ったく、いかにも無痛、みたいな石頭がこういう時はとくに腹が立つな」

 頭をギリギリし続けていた宮橋が、「まぁいいさ」と言って手を離した。雪弥はよく分からないまま、日差しで灰色とも蒼色ともつかない髪をさらりと揺らし、再び歩き出した彼の隣に並んだ。