「リザには、少し用を頼んでいる」

 気を取り直すようにして、彼はそう答えてシガーライターで葉巻に火を付ける。豪快に吐き出された煙を見ないまま、雪弥がテーブル越しの開いた距離にもかかわらず、付き合いの始まった十代の頃から変わらず続いている仕草で片手を振っていた。

 リザは、ナンバー1の秘書として仕事を手伝っている女性エージェントだ。秘書業がメインで現場に入る事は少なく、最も美しいと評判のある女性でもあった。

「昨夜の件、後処理は全てウチでやっておいた。調査については『蒼慶』と連携して進め、蒼緋蔵邸の周囲には念のため優秀なエージェントを置いてある」

 互いが珈琲を少しやったところで、ナンバー1が唐突に切り出した。

 雪弥は、その報告を冷静に聞きながら「そうでしょうね」と相槌を打ち、珈琲カップをテーブルに戻した。

「近くにいたのには、気付いていましたから」

 増えていた人間の気配は察知していた。とはいえ『嗅ぎ慣れない匂い』もあって、ひとまず殺しておこうかと思って出たところで、自分の直属の暗殺起動隊第四番部隊が接触してきたのだ。応援として他の部隊班と共に待機していた、後はお任せください、と――。


――だから、どうかお鎮まりください、我らが「ナンバー4」。


 まるで皆殺しにするのはおやめください、とお願いされているみたいだった。部隊長である夜狐を、あの時、雪弥は不思議に思って見つめていたものだ。