「ったく、そうやっていちいち返すところが可愛くない」

 そうぐちぐち言いながら向かう男は、特殊機関のトップエージェント――ナンバー1だった。太い骨格と鍛え上げられた筋肉を持った、厳つい強面の大柄で屈強な男だ。

 脅迫じみた威圧感さえ覚える顔には、白い傷痕が浮かんでいる。煙草よりも葉巻を好み、太い指にはデカい宝石や銀といったいつかの指輪をはめていた。

 ナンバー1が、暖かい珈琲をテーブルに置いた。雪弥がソファに座り直すと、彼は向かい側にどっしりと腰を下ろして「やれやれ」といった顰め面で葉巻を取り出した。

 暖かい珈琲を口にした雪弥は、いつもとは違う珈琲の『雑な苦味』に気付いた。

「リザさん、いないんですか?」

 可愛い顔をチラリと顰めて、そういえば彼の秘書の姿が見えないなと辺りを見やりながらそう言う。するとナンバー1が、ぶすっとした顔でこう言い返した。

「私が特別に淹れてやったんだ。感謝しろ」
「正直あんまり美味しくないです」

 ズバッと言われたナンバー1は、コノヤローという具合に口許を引き攣らせながら「同じ珈琲メーカーなんだが……」と呟いた。