「有り前じゃないですか」
「それが、君と一般的なズレなんだよ」

 目の前から指を向けて、宮橋が告げる。きょとんとしている雪弥を見て取るなり、近付けていた顔を起こすと「前もって言っておくが」とキッパリとした声を出した。

「僕は殺しを肯定しない。どんな理由であれ、人を殺す行為を認めていない」

 宮橋は、自分よりも低い位置にある雪弥の顔を見下ろしてそう言い切った。

 数秒ほど、雪弥は二十歳ほどにしか見えない警戒心ない表情で見つめ返していた。それから、そんな当たり前のこと分かっていますよ、とにっこりと笑って答えた。

「宮橋さんは、刑事さんですからね」

 その時、宮橋のスーツの胸ポケットから着信音が上がった。

 なんだか聞き慣れないアップテンポなメルディー音だ。場の空気を飛ばすみたいな陽気な曲っぽい、と雪弥が目を向ける中、彼が「一体誰だ?」と綺麗な顔を顰めて携帯電話を取り出す。

「なんだ、三鬼か」

 着信の画面を見た途端、宮橋がますます眉を寄せて呟く。それから、何用だとぐちぐち言いながら、ボタンを押して着信に出た。