「わざわざここまで来たのに、どうして三日後なんて面倒臭い事を言って退散したんですかね?」
「彼は、血に流れる一族の『(ことわり)』に従ったまでさ。簡単に言ってしまえば『しきたり』。昔話でもよく聞くだろう、何日後に迎えに行くだとか命をもらい受けるだとか」

 そう促されて、雪弥は「まぁ、聞き覚えはありますね」と答えた。

「あれらは呪詛みたいなものさ。言葉でもって『必ずそれを達成するぞ』という願掛けとも取れる。どちらかが討たれるまで、相手と己に何かしらの縁や繋がりをもたせたいわけだ」
「ただの殺人予告にしか思えないんですけどね」

 雪弥は、自分がそういった小説やら昔話やらを読んだ際の感想を思い返して小首を傾げた。

 その様子は、先程までと違って無害そうな雰囲気しか漂っていない。見つめていた宮橋が、フッと美麗な顔に含むような笑みを浮かべた。

「――まぁ、君にはただの猶予期間付きの無駄な事に思えるだろうね。何せ君なら、『判断した瞬間に喰らい付いて殺している』」

 指でトンっと胸をつかれた。

 雪弥は不思議そうに彼を見つめて、こう言った。