「…………さっきまで、どこにいたんです?」
「ん? 僕はずっとココにいたよ」

 最初から最後まで全部見ていた、と言いながら宮橋が大男のいた場所へと目を向けた。直前まで止まっていたような風が抜き拭けて、雪弥と彼の柔らかな髪を揺らしていく。

「あれは、正真正銘の『鬼』さ」
「鬼?」
「呪って鬼、怨みに鬼、そして人為的に化す鬼――まぁざっくり言うと、見える方の鬼だよ」

 まるで本に書かれていた一文を読むように口にしていた宮橋が、少し肩をすくめてあっさりした口調に戻してそう言う。

「あの男は、それらを従える『見える方の鬼』のオリジナルの一族。そして君が気配を追えなかったのは、ここに本体の全部を持ってきていなかったからさ」

 そんな事ありえるのだろうか、と疑問が浮かんだものの考えるのをやめた。これまでの不思議な事を振り返るとありそうな気もしてくるし、気配が追えない経験は少なからずある。

「まぁ僕は考えるのは苦手ですし、ひとまずそういう事にしておきます」

 とはいえ、と雪弥は口にして宮橋と目を合わせた。