どれくらい歩いていただろうか。僕の事は気にするな、空気と同じと思え今は意識するな、と、またしても宮橋から不思議な指示のような言葉を掛けられてから、しばらく会話もなく山道を下っていた。

 不意に、草葉が不自然に立てる音を耳にして、雪弥は足を止めた。そちらへ目を向けてみると、随分と大きな肩をしたずんぐりとした大男の姿があった。

「お前が、蒼緋蔵家の『番犬候補』か」

 大男が、やけに赤みの強い目で真っすぐ見据えて言う。眼球がやけに小さく見えるのは、顔の大きさがあるせいなのだろうか。額には何本の筋が立ち、首も両手を合わせても巻き届かないほどに太そうだ。

 その後ろには、一回り小さなずんぐりとした男が二人いた。どちらも妙な気配だ。顔には黒塗り鬼の仮面をはめていて、両腕をだらんとさせて俯き加減で立っている。

 蒼緋蔵家、と聞いて雪弥は顔を顰める。どうやらエージェント関係ではないらしいと察した途端に、普段の気性も忘れてピリピリと殺気立っていた。