「チッ、ノーダメージか。頭も小さいくせに意外と頑丈で、ますますイラッとするぞ。――まぁいいさ、向こうから勝手に接触してくるから、君はそれまでただ歩いていればいい」

 背中から、宮橋の大きな手が離れていった。一時的に歩く順番を変えているだけのようだと分かって、ひとまず雪弥は「了解」と簡単に答えて前へと目を戻した。

 用件がある相手、と断言する物言いは不思議だった。でも、もし宮橋が言うような相手が本当に来ているというのなら、わざわざここまで追って来たようにも感じる用については知りたくもあった。

 それであるのならば、自分が前にいるのも賛成である。その相手が攻撃者の(たぐい)であったとしたのなら、宮橋(かれ)が後ろにいれば自分は真っ先その相手を殺せる。

「雪弥君、今、何を考えている?」

 よそに視線を流し向けてスーツの袖口を整え直していたら、後ろから声を掛けられた。

「何も」

 雪弥は、戸惑いも置かずにそう答えた。意識もせずに口からこぼれ落ちたその回答は、随分冷やかな響きでもって発されていた。