本能的な条件反射のように五感が研ぎ澄まされ、壊すべき物と殺すべき生き物を探す。

 すぐに察知したのは、近くにいる宮橋の落ち着いた『鼓動』と『呼吸音』だった。そしてこの場には、敵意や殺気とは違う不思議な『気配と匂い』が満ちている。

 先に言われていた説明と指示を思い出した雪弥は、ひとまずは一時的に警戒状態を解いた。ただただその気配と匂いが不思議で、なんだろうなと黒一色を眺めやる。

 不意に、闇の中から、男性用の着物の袖と白い手が現われた。

 黄色く長い爪を持ったその掌が差し出されると、その向かいから、またぼんやりと見覚えのある宮橋のスーツの袖と手が浮かび上がる。

「姫の子の骨、送り届けてくれたこと感謝する」

 小さな骨を掌に受け止めた手が、ゆっくりと握られて野太い男の声が聞こえた。

 なんとも不思議な光景だった。見えるのは、やりとりされる手だけだ。相手だけでなく、宮橋の姿も黒く塗り潰されていて、雪弥の目には留まらないでいる。