すると、前を歩く宮橋が「別に構わないさ」と肩を竦めた。

「正確に言えば、ここを通して繋がっている場所に用がある」
「はぁ。また不思議な事を言いますね」
「君、今面倒になって考えを全部放り投げたろ。まぁ付いてこれば分かる――ああ、でも君は『こっち側』を見る目は持っていないから、視認出来ないかもしれないな」

 雪弥は、山道を登っていくすらりとした背中を眺める。そうしたら彼が、肩越しに目を向けて来て「いいかい、雪弥君」と人指し指を立てた。

「境界線というのは、世界の呼吸のように動いている。このまま急にポッと『飛び込む』事になるだろうけれど、慌てず騒がず、ただ僕が骨を返すのを待っていればいい」

 理解も求めず一方的に語った宮橋が、気付いたように前を見る。


「ああ、そろそろ『来る』な」


 何が、と雪弥は尋ねようとした。

 だが直後、ふっと世界が闇に呑まれた。

 何も見えない、温度もなく風もない。傾斜の上に立っていたはずなのに、地盤が真っすぐなのを感じ取って、前触れもない状況の変化に身体の動きを止めた。