午後に日が傾き出している。

 やがて到着したのは、県を超えた先にあった緑の続く山々だった。スポーツカーは迷わず一つの田舎道を真っすぐ進んで山に入ると、落ち葉に埋め尽くされたちょっとした土肌のスペースに停車した。

「ここが、その骨を返す目的地なんですか?」

 下車して山道を登り始めた宮橋の背中に、雪弥は問い掛けた。

 木々に遮られた日差しが、細い獣道を照らし出していた。むっとした初夏の熱気は、植物の涼しげな環境の中で半減されていて、歩く二人の足元からは落ち葉と土を踏む音が上がっている。

「まぁね。『母鬼』と呼ばれる物語の地はいくつかあるが、ここは『子が討たれ葬られた場所』とでも言うべきか」
「説明されている気はするのに、しっくり理解に至らないのは、僕が文献やら歴史やらを知らないせいですかね……」

 地元では有名な場所だったりするのかな、と雪弥は辺りを見やる。けれど普段から人が訪れているような形跡や、歴史的何かとして保存されているような看板もない。