不思議な事に、空気とは別の『何か』を斬った感触がした。ぞわぞわとした身の内側に途端に広がったのは、ああ、殺してやったぞと低く嗤うような錯覚的な満足感で――。

「ははっ、さすがは化け物退治の三大大家の番犬だ!」

 そんな宮橋の声が聞こえて、雪弥はハタと我に返った。

「予想以上に凄まじい切れ味だ。あのバカデカいモノも、あっさり真っ二つにするとは畏れ入る――まさか『見えないモノ』も引き裂くとはね!」

 大変満足そうな声を聞きながら、助手席に座り直した雪弥は不思議そうに自分の手を見た。確かに何かを『斬った』感触が残っていた。でも、これまで『斬り裂いて』きたあらゆるものと質感が違っている気がする。

 人間や動物と、骨格や肉の付き方も少し違っていて、実に奇妙。

 とはいえ、それがどんな生き物に似ているのかと問われても答えるのは難しい。化け物退治と聞いて、先日兄が話していた蒼緋蔵家の事が脳裏を過ぎるものの実感はない。元に戻した爪先の感触に意識は引っ張られ、やっぱり気になってそちらを考えてしまう。

「なんだろう。やたらと骨があるみたいな……?」
「ははは、まぁ確かに、そこそこ骨は多そうなヤツだったよ」

 見えないのが幸いなくらいさ、と宮橋は言った。