――でも、それも自分の気のせいなのかもしれない。

 エージェントとしての仕事で、殺すための手が。そして身体が重い、だなんて感じた事は、なかったから。

「勝負は、ついたな」

 その一瞬の勝敗を見届け、宮橋が言った。

 双方が全力でぶつかり合った直後、ドゥッと上がった重々しい音。頭部をなくした怨鬼の身体が、潜血をまきちらしながら鬼の死骸の上へ崩れ落ちる。

 標的の死亡を、雪弥はしかと確認した。

 その時、どちらかが倒れて決着がついたのを感知でもしたのか、海側からの砲撃が一気に激しさを増した。最後の総攻撃だろう。証拠を隠滅する気なのだ。

「雪弥君! ずらかるぞ!」

 その声を聞いて、雪弥の顔に人らしい表情が戻る。

 振り返ってみると、上に、煙に煽られている宮橋の姿があった。それが目に留まった途端、雪弥は任務中の身であった事も思い出す。

「宮橋さん、そこにいてください。すぐに迎えに行きます」
「あ、それはいらん。おい、いいから、やめろ」
「何を言っているんですか」

 一つ飛びで上まで行った雪弥は、ふわりと着地して訝った。ふと、自分の血まみれの両手に気付く。