なら、そばに行くまでだ。望まれて、必要であるというのなら彼の力になろう。たとえ一族の遠い縁の者がなんと言ったって、構うものか。

 ――それでも雪弥の〝家族〟が、笑ってくれるのなら。

 彼らを傷付けない勇気を持って、そばに行こう。

「実にいいぞ番犬!」

 ははっと大きく笑って、怨鬼が両足を踏みしめた。

「ならば〝鬼〟と〝獣〟、どちらが強いか、この時代でもまた決着をつけようではないか!」

 彼は、代々受け継がれてきた〝隠された戦争の歴史〟を知っているのか。

 いや、今、そんな事はどうだっていい。

「兄さんが必要と判断しない限り、僕には無用だ」

 大昔の事なんて興味がない。雪弥はいつだって、出会ったあの幼い日から、父と、母と、もう一人の母と、兄の蒼慶と、妹の緋菜と。そして自分の手を平気で引っ張った、あの変わり者のヘンタイ執事のいる風景を、宝物のように胸に抱えて生きている。

 静かに睨みあった直後、雪弥と怨鬼は同時に走り出していた。こんなにも足が、身体が軽かったのかと、雪弥は静かに驚きを覚えたりした。