「またいちいち余計な事まで考えるなよ。今、〝君がどうしたいのか〟を考えろ」

 ――そんなの、自分がよく分かってる。

 雪弥は、宮橋の声を聞いて思った。久しぶりに、色々なところが鈍く『痛み』を伝えてくる。消耗しきったせいか、頭は余分なところに気が回らないくらい、どこかクリアだ。

 もし、ここで死ぬ事になったら、と考えたら、とうに答えも出ていた。

 ここで死んだら、結局は守れない。

「お前は、僕の事を候補ではなく、【番犬】と呼んだな」

 歩み寄る雪弥の目が、凍えるような毅然とした美しい殺気を孕んで、淡く光る。

「なら、僕はそうであろう。僕は、兄さん達を害するあらゆる敵の喉元に噛み付いて殺す、番犬という名を持つ、その副当主とやらになってやる」

 迷いは吹っ切れた。そもそも特殊機関でも、自分の役割はそうだったではないか。

 いつだって迷わず戦ってきた。それが、雪弥が唯一できる事。

 そして兄は、それを必要だと言った。おかしいだとか、おかしくないだとか、よく分からない事は考えない。兄は一度だって雪弥に『周りに合わせろ』だとか、『変われ』だとかは言わなかった。