不意に立ち上がった彼を見て、怨鬼が初めて狼狽を見せた。こちらを見る雪弥の目は見開かれ、煌々と青く光っている。

 獣が、獲物に狙いを定めた目だった。

 首一つになろうと、執念深く最後までシトめようとする、獣のソレだ。

「ば、馬鹿な。確かに我は、胸の急所のほとんどを砕いたぞ」
「君と同じさ。元々ひどく頑丈だが、それ以上に彼は〝驚異的〟なんだよ。そのどこかの黒幕さんが、興味を抱くほどのね」

 上から眺める宮橋が、淡々と答える。

「身体への負荷耐性、治癒と呼べるものを上回る負傷した箇所への再生能力。この二十四年で身体に馴染んだ番犬としての血は、君らのそれらを凌駕する」

 と、宮橋は、そこで雪弥に大きな声で言葉を投げる。

「おい、雪弥君。ここまで好き放題やられたんだ。さすがの君も、観念して素直になってみたらどうだい」

 その言葉を聞きながら、雪弥はゆらりと怨鬼へ身体を向けた。動くようになった腕の動作を、確認するかのように少しだけ力を入れる。