咄嗟に両手を膝の上で広げたら、綺麗なカーブを描いて携帯電話が手に落ちてきた。雪弥は、しばし見下ろし、連絡が取れるようにしておいた方がいいかと考えて、今回は任務用にと持たされなかったので、自分のプライベートの携帯電話を取り出した。

 直後、急ブレーキが掛かって身体が前のめりになった。

 青いスポーツカーが、ブレーキの煩い音を立てながらドリフトで路肩に急停車する。シートベルトに押さえられた雪弥は、とくに驚いた様子もなくチラリと眉を寄せた。

「いきなりなんですか?」

 訝って目を向けてみると、宮橋がこちらの何かを凝視していた。視線の先を追った雪弥は、それが自分の携帯電話に、呑気な表情でぶらさがっている『白豆』に向けられていると気付いた。

「君、なんだその気持ち悪い人形」
「え? 白豆ですけれど」

 雪弥が当たり前のように答えた途端、車内が沈黙に包まれた。

 じっとこちらを見ていた宮橋が、雪弥とへんてこな阿呆面のコスマット人形をたっぷり見比べた。ハンドルを握ったままの彼は、やがて「ふぅ」っと吐息をこぼして項垂れてこう言った。