刑事達のひそひそと話す声の向こうで、自分の席に腰掛けている捜査一課の小楠警部が、頭が痛いという顔で視線をそらしていた。余計な質問はするんじゃない、研修だ、以上――そう説明してからというもの、彼はかなりげっそりとした様子で口を閉ざしている。

 先程、小楠警部が案内して来た際に「はぁ?」と言ってからというもの、宮橋はいかにも不服だと言わんばかりの表情で腕を組み、一言も発さずにいた。

「…………」

 向かい合う雪弥も、相手の発言を待つかのようにずっと黙ったままだ。ちょこんと膝の上に手を置いて、ただただ彼を見つめ返しじっと大人しくしている。

 見つめ合う二人の沈黙を、部屋の外から他の刑事達が見守っている状況だった。普段は騒がしいというのに、今はただただ冷房機の稼働音がしているばかりだ。

 窓からは、夏の日差しの熱気が伝わって来ていた。

「僕は相談所じゃないぞ」

 と、不意に、ようやく宮橋が声を出した。低い美声は地を這うようで、そろりそろりと扉に近づいていた二十代の刑事達が、途端に回れ右をして離れ出す。

 一旦離れていた一人の中年男と、その後輩で二年になる若い相棒刑事が戻ってきた。それを見た彼らが「三鬼さん、警部がちょっと」と声を掛けて、唐突な来訪車と向かい合っている宮橋の方に突撃させないよう、まずは二人をそちらへと向かわせる。

「深夜に睡眠を邪魔された時にも、『どちらにも』断ったはずだが?」

 宮橋は、部屋の外のやりとりなぞどうでもいいと言わんばかりに、雪弥だけを冷やかに見据えてそう言葉を続ける。

 かなり怒っている声だった。とはいえ雪弥自身、その経緯についてもあまり知らなかったので、「はぁ」としか相槌が出ないでもいた。

「その…………僕としても、何がなんだか」

 思わず首を傾げて、戸惑いの声をもらした雪弥は、数時間前の事を振り返った。