殺さなければならない。殺していい。目の前の鬱陶しい雑魚を片付けねば、あの大将は出てこないのだから。嗚呼、殺してやった――とても心穏やかな気分がした。

 ぐらりと揺れていた脳が、元に戻る感覚。

「ならば、好都合」

 短い思考を終えた雪弥は、そう物憂げに口にした直後、不意に凍える青い目で怨鬼をロックオンした。

 強烈な殺気に、飛びかかった鬼が唐突に嘔吐した。目も向けないまま、雪弥は〝反射的に〟その垂れた(こうべ)を処刑のごとく〝切り落とした〟。

「全員ここで殺して、一人も兄さんのところへは行かせない」

 この三日間、思い返すたびに不快だった。それをここで片付ける。

 雪弥は、宣言すると一気に突き進んだ。首を、胸を、胴を、腕ごと切断して斬り落としていきながら、喚く鬼共の間を行く。

 身軽な動きをした鬼が、高く飛んで頭上から雪弥に迫った。

 ――その次の瞬間、血の雨が降り注いだ。

 一瞬にして、爪でバラバラに切り裂かれた残骸が、ぼとぼとと鬼共や地上に落ちる。雄叫びを上げる鬼が、雪弥が通り過ぎた直後には生きたまま四肢をもがれ、身体の一部を弾けさせていた。

「……お前、本当にただの〝候補の一人〟なのか?」

 怨鬼が、初めてやや緊張した様子で喉仏を上下した。しかし、そこに恐怖はなく、

「なんと。なんと、面白い事か」

 同じく殺戮を愉しむ怨鬼が、自分の横から向かおうとした部下の鬼を、うっかり素手で掴んで潰しながらそう言った。