雪弥は、小さく溜息を吐いた。

「言われなくとも」

 そうしないと、あなたにも被害が行くでしょうに、と思いながら雪弥は飛び降りた。

 その時、怨鬼が叫んだ。

「さぁ殺せ! 狩りの時間だ!」

 直後、最後の箍が外れたかのように、鬼共が雄叫びを上げて一斉に武器を持ち、雪弥へと向かい出した。

 まるで獣の咆哮のようだ。

 下へと落下していきながら、雪弥はその光景を見て思った。叫びは言葉の羅列として、耳に聞こえても来ない。

 人、ではないのか。

 もはや自我は、ないのか。

 怨みに、鬼。己の感情に呑まれて人を捨て、なんらかの形で〝人〟を〝失ったモノ〟。それほどまでにして、自分を抑えきれなかった者も中にはあるのだろうか。

 ――今となっては、いや、そもそも雪弥には知った事でもないのだけれど。

『バケモノ退治と行こうじゃないか』

 風を切る音がする耳元で、先程の宮橋の声が蘇った。

 不思議と、その言葉が親しみ慣れた語彙のように、聴覚に沁みた。

 ――兄を、そして家族を守る。

 不意に、カチリ、と頭の思考が切り替わるのを感じた。

 殺せ。害になるモノ、要らぬ存在、全てを〝殺せ〟。獰猛な激情が込み上げた直後、雪弥は飛んできた鈍器を足場に、空中で軌道を変えて前方に飛び出していた。