「それじゃあ、行きます」

 そろそろか、と察して雪弥は言った。

「ああ、行ってくるといい。ただ、これだけ言っておく」

 一歩踏み出して飛び出そうとしたところで、雪弥は、自分のスーツの裾を掴んできた宮橋を振り返った。

 活き活きとした彼の明るいブラウンの目が、雪弥の鈍く光る青い目と合うと、強気に笑んだ。

「〝周りの事情も環境も関係ない。君が、どうしたいのか〟だ」

 それは相談役としての、最後の宮橋なりの『答え』の形のように思えた。

「それ、アドバイスだったりしますか?」

 思わず尋ね返してみると、彼が答えないまま、にっこりと笑って手を離した。

 やっぱり、その読めない笑顔は兄を思わせた。雪弥は兄のそれを前にした時のように、条件反射でぞぞーっとしてしまう。

「さて」

 笑み一つで雪弥を黙らせる事に成功した宮橋が、手を打った。

「雪弥君、派手な〝化け物退治〟といこうじゃないか。僕が許可する。この一帯は〝無音状態〟だ――存分に暴れまくれ」