「好みの色は知りませんけど、一体、何をどうしたら海に落とす事になるんですか?」
「緊急事態だった、人命がかかっていたからな」

 さらっとだけ宮橋が言う。

 愛車を海に突き落とす緊急事態って、なんだろうなと疑問が浮かぶ。雪弥は黒いコンタクトをした目をチラリと窓に向けて、またしても数台が追い抜かれたのを見た。

「このサイレンと爆走、宮橋さんが怒られません?」
「ぎゃーぎゃー騒がれたり気絶されるよりマシだが、そうやって心配されたのは初めてだな。君は真面目なのか? いいか、これが出来るのが醍醐味なんだぞ」

 かなり怒られそうな事を口にしながらクラッチを切り替えて、宮橋が隣の県まで伸びる国道へと青いスポーツカーを走り向けた。比較的車道は空いていて、輸送車や会社のマークが入った車からチラチラ目に留まった。

 その時、宮橋が胸ポケットを探った。

「何かあった時に面倒だ。君の携帯番号を、僕のものに登録しておいてくれ」

 言いながら、目も向けずにひょいっと投げて寄越された。