そんな雪弥の疑問でも察したみたいに、またタイミングよく宮橋が視線を返してきた。

「人間ってのはね。どんなであれ、根っこの部分まで〝嘘を付けない〟ものなのさ」

 宮橋の形のいい口元に、不意に勝ち気な笑みが浮かぶ。

「――それを人は、素直なバカ、と言ったりする」

 ニュアンスが、先日『猫」と名乗った少女にどことなく似ている。

 が、言葉がひっどい。

 雪弥は、そこに隠されている意図やら思いやらを考える間もなく、勘繰りさえも放棄して脱力してしまった。

「素直なバカって……僕は、そのどちらでもないかと」
「自分でそう名乗るやつも少ない」

 がっくり項垂れた雪弥の横で、ふふんと宮橋はどこか満足げだ。

「僕は〝殺しを否定する者〟だよ、雪弥君」

 唐突に宮橋が、凛、とした声で言い放った。

 今更何を、と言いかけて、頭を上げた雪弥はハタと気付く。向こうを真っ直ぐ見据えた宮橋は、微塵の尻込みも見せずにニヤッとした。

「だが、相手は人間ではない」

 宮橋が、ハッキリとそう述べた。