「まっ、そんな事はどうでもいいんだよ。この軍用ヘリだ」
「そこで話を戻しますか」
「ヘリの離陸くらい、誰でも簡単にできるだろう」
「大事なのは、着陸です」

 横顔に提案を投げ掛けられた雪弥は、ひとまずキパッとそう答えた。

 軍用の輸送機の中には、よく見知った空気が緊張感をもって漂っていた。

 到着までを待ちながら、雪弥は小さく鼻息をもらして腕を組む。つい先程まで、エージェントとしての空気からは離れていたので、なんだか〝日常を過ごす宮橋〟が隣にいるのも変な感じがした。

「これが、君が普段いる側の世界、か」

 ふと、そんな声が隣からした。

 目を向けてみると、同じく足を組んで機内の様子を眺めている宮橋が、吹き込む風に明るい色の髪をバタバタさせながら言う。

「なんとも落ち着かない物騒さだね」

 そうだろうか。これが普段通りだったから、賑わう県警の食堂だとか、宮橋と刑事として雑務をしていた時の方が、雪弥は落ち着かなかった。