離陸、というキーワードに刑事達が「ん?」と反応したのも、束の間――彼の携帯電話にストラップの『白豆』が揺れているのを見て、室内を覗き込んでいた彼らが「ひぇ」と先程以上にざわついた。

「なんだあの気持ち悪いストラップ!?」
「あの顔、ずっと見てたら仕事の気力を削がれに削がれて、ある意味呪われそう……」
「今の若い子って、ああいうマスコット好きなのかな……どっかの景品で見た覚えが」
「あの子も、ちょっと変わってんだなぁ」

 その間も、雪弥は真面目にふむふむとメールを確認しては、指示を送る、を繰り返していた。

 扉から堂々と覗き込んでいる刑事達のどよめき。そして気付いていない雪弥の様子を、全体から宮橋だけが冷静にじっと見ていた。

「君、色々と言われているが、いいのか」

 少し考えた宮橋が、ちょっとばかし気を利かせてそう言った。

「何がですか?」

 きょとんとにこやかな目を戻した雪弥は、続いて入ったメールの報告に「あ」と気付く。

「一番近場だと……ああ、ホテルのヘリポートを押さえておきます」

 そうあっさり答えた雪弥を、財閥の御曹司である宮橋が、けれど珍しく物言いたげな表情を浮かべたのだった。