いや、そんな事、あるはずがないのだけれど。

 オフィス内は、耳でも澄ませるみたいにやけに静かになった。そんな状況の中、宮橋が机に手を置いて小楠警部へ顔を近付け、相談事を持ちかけるようにして告げる。

「小楠警部。僕は今日、外に用事があって〝恐らくはこの後、本日中に再び出社できる可能性が低い〟」
「なんだと?」
「L事件特別捜査課として与えられている〝休暇権〟を使用します」

 途端、オフィス内がざわっとなった。

 雪弥は、その反応を不思議そうにちらりと横目に見た。すると小楠警部が、ガタッと椅子を鳴らして立ち上がる。

「なんだ、まさかまた何か起こっているんじゃないだろうな!?」
「あなたが考えているような(たぐい)の事は、何も」

 ずいっと覗き込まれた宮橋が、さけるように後ろへ寄って距離を置く。

 普段の茶化す感じはなく、そらされた目はとても落ち着いている。それを改めて確認した小楠警部が、髪を手で乱した。