「ああ。うん、これは、どうも」

 特殊機関だとか事情を知らない部下の手前、小楠警部が雪弥への対応に窮した様子でどうにか応える。

 彼の視線は、すぐに宮橋へと戻った。向かってくるのを見ている時から、なんだか嫌な予感を覚えているような引き攣った表情を浮かべてもいた。

「なんだ、なんの用だ宮橋」

 身構えて小楠警部が尋ねた。

 警戒心が高い……この人、普段から上司に何をしているんだろうな、と雪弥が思っていると、宮橋が嘘臭い「ははは」と形ばかりの笑い声を上げた。

「『なんだ』と言われても、朝の出勤ですよ」
「大遅刻の時間だけどな」

 確かに、と雪弥が小楠警部に同意した時、宮橋がニッと口角を荒っぽく引き上げた。

 宮橋のまとっている気配が、その見た目に反して不意にピリッと引き締まるのを感じた。部署内の空気が、一瞬、それに目敏く反応したかのように変わる。

 まるでここにいる中堅クラス以上の刑事達が、宮橋という人間を〝必用以上に気にかけているみたいだ〟と雪弥は思った。