それからしばらく経った頃、N県警の捜査一課が小さくざわついた。

 始業からとうに時間も過ぎたタイミングで、やはり一般よりも目立つ高級スーツをばっちり決めて宮橋が現われたのだ。

 遅刻なのに、まるで遅刻と感じさせない堂々とした歩きっぷりだ。そんな彼の後ろには、例の〝研修の新人〟の姿がある。

「あの人、警部のところに真っ直ぐ進んでくぞ……」
「普段は即自由にしているだけに、それも逆に怖いな……」
「でも、こっち来る前、ファミレスで大量食いしていたらしいぞ。見回りの十部巡査から〝通報〟が入ってた」
「マジか。宮橋さん、もっと食べるようになったのか?」

 ――もともと食べる人だとは知られていたが、まさか皿を大量に空にしていたのが雪弥だとは推測に至らず、宮橋の胃袋が誤解されていた。

 だが、そんな事は当人達が知るはずもなく、宮橋が真っ直ぐ進んで上司の机の前で止まった。

 そこには、小楠警部がいた。雪弥は周りから向けられている視線を気にしつつも、ひとまずはこの場にいる自分の〝設定〟を思い出して、彼に会釈する。