またしても思ったまま口にしてしまった。どうもエージェントとしての仕事とは別だから、緊張感が抜けてしまっているのだろうか。

 雪弥が見つめ返す先には、おいコラ、と言いたげに睨んでくる美しい宮橋の顔があった。

「君と一緒にするな。一つ返事でヘリを用意する君と同系列に並べられるのは、大変遺憾だ」
「いや、僕だって組織に所属している一人のエージェントにすぎないんですが」

 その時、電話が繋がったようだった。

 宮橋が話し出し、パッと手を離された雪弥は口をつぐんだ。乱された頭の髪の毛を、ひとまずぶんぶんっと振る。

 癖のないさらさらとした髪が、元に戻るのを宮橋が靴をはきながらも横目に見ていた。

「うむ。犬だな」
「なんですか、いきなり?」
「君ね、面倒だからって手櫛もしないのは、どうかと――ああ、すまないね、こっちの話だ」

 宮橋が途中、電話の応答へと戻った。

「そうか。いや、しばらく署にいるというのなら問題ない。それじゃ」

 外に出たところで、会話が終わって宮橋が携帯電話をしまった。

「まっ、念には念をってやつだ。途中で、また連絡でもされたら面倒だからね。きちんと報告して時間を確保するのさ」

 そう、彼は雪弥に教えた。