「その点、君の兄はそこがハッキリとしている」
「兄さんですか?」

 唐突に名を出されたのが予想外だった。

 見つめ返した雪弥に、宮橋は缶ビールを持った手の指を、ぴしりと向ける。

「迷う事無く『自分がどうしたいのか』を決め、今もなお突き進み動いている意思の強さは、尊敬に値する」
「確かに意思は強いですけど、人様の仕事風景をハッキングしたりいびり電話をかけてくる容赦ない恐怖の兄なんですが……」
「君がそれを、ハッキングだのストーカーだの言っている間は、兄心に気づくまい」

 宮橋は、兄弟問題は相談外だと言わんばかりの態度で、ビールを口にする。

 本当の事なのになぁと心の中で呟き、雪弥もビールを飲んだ。あ、うまい。そう思って、ほんの少しの間、頭の中にあったいくつかの事も忘れた。

「明日の件だが、一晩僕に考えさせてくれ」
「ん? 明日って、あの宣戦予告してきた鬼男のことですか?」
「ああ。正直いうと、今回ぎったんぎったんに叩きのめしたいくらい腹が立っている」
「うわぁ……真顔で言った」

 目が本気(マジ)だったのを見た雪弥は、ひとまず宮橋に任せる事にしたのだった。