どこからか、チクタクと秒針が時を刻む音がした。冷房がかかっているのに、黙り込むとこんなに静かな空間なのかと思う。

「副当主と番犬は、別だったりするんですか」

 やや間を置いたのち、ビールを数口飲んだ宮橋に尋ねた。

「どうしてそう思う?」
「なんとなく、宮橋さんの話し方にそう感じたんです」
「さぁ、どうかな。僕が教えられるまは、今はここまでだよ」

 なんだか中途半端で腑に落ちない。けれど不思議に少しすっきりした感じはあって、雪弥はひょいと起き上がった。

 すると、見つめ返した拍子に、宮橋に缶ビールを手渡された。

「色々と教えても、正しく理解してもらわなければ意味がない。それは実感を伴う〝理解〟という意味合いで、だ」
「はぁ、まるで『悟り』みたいに言いますね……僕の血は、一族の人間としてその絶望を知っている、と?」

 缶ビールを受け取った雪弥は、ざっくり解釈しつつ確認する。

「まぁ、そうともいう」
「つまり僕が、確かに蒼緋蔵家の人間で、その戦士部隊を任せられていた副当主の素質がある一族の者だった、という感じなんですかね」