「えっと、兄からは聞いています。確か、代々弟がなっていたとか、なんとか……」
「それよりも、ずっと前の話さ」

 宮橋は、一度しか言わないぞと凄んで続ける。

「若き当主と、その妹である〝巫女〟は、家族のように信頼して【番犬】に寄り沿った。だが一族は、一時、〝若き彼らの死をもって〟終わりかけた。それを終わらせなかったのが【番犬】の存在だった」

 それを聞いて、不意に胸の奥でずくずくと何かが渦巻いた。

 終わりかけたのではない。終わらせようとした者達がいたのだと、なぜか雪弥はそんな事を感じた。頭の中で、警鐘のようなものが鳴るような眩暈を覚える。

 ――ああ、ひさらぎ。

 意味のない独白か、それとも自分が無意識に口にした言葉なのか。ぐわんぐわんと頭痛でもしているみたいで、よく分からなくなる。

 けれどハッキリと感じていたのは、強い殺意だった。

 雪弥は手で顔を押さえ、鈍く揺らめく蒼い目で宮橋を見た。自分の上にいるその〝人間〟を、今すぐ引き裂いてしまいたい衝動にかられていた。