「『とても殺したくてたまらない』という顔をしているな」

 歩いて向かった来る彼に、そう声を投げられて雪弥は目元に微笑を浮かべた。

「それの何が可笑しいんですか? だって、殺していいんでしょう? アレらは、敵だ」
「へぇ。敵、ねぇ――それにしては君、とても〝愉しそう〟だね」

 言われて、不意に我に返る。

 ――愉しそう?

 意識して抑制した途端、喉が渇くような満たされなさを覚えた。殺したくてたまらないと指摘された先程の宮橋の言葉を、今になって正しく理解する。

『君に殺させないためさ』

 出会い頭に宮橋に言われたことを、ふと思い出した。

 あの時、自分は、オフィスで動いている全員を殺す手順を考えていた。屋敷で異形になり果てたアリスを前にした時だって、殺したくてたまらなかった事を思い出す。

 ――だから、兄のそばにいられないのだ、と。

「僕は、おかしいんですかね」

 視線を落とした雪弥は、ややあって〝人間の気配を察知〟して、近付いてくる宮橋に対してぽつりと問い掛けた。