「鬼の出現にも条件がある。『怨鬼』の一族の【物語】から考えると、あとは潮の満ち引きから時刻を割り出せる」
「はぁ。また、【物語】ですか……」
「そもそもな、その時になって勝手に一人で動かれても困るぞ。君は今、僕の臨時の相棒で、それは君にとって任務でもある。僕だって今回の一件には、一発ぶちこみたいくらいには切れているんだ。やられたら、その何倍でやり返すのが僕の性分だ」

 つらつらと語られる声を聞きながら、雪弥は、ふと宮橋と三鬼の電話のやりとりを思い出した。彼は三鬼を、ビルの上から逆さ吊りにした事があるのだとか。

 ……この人なら、やりかねないな。

 そう思っていると、不意に小さな声が耳に入った。

「迷いがある中途半端なままで、君に普段の力が出せるとは思えないんだけどな」

 ぽそりと宮橋が独り言を呟いた。

 不思議に思って顔を上げれば、見つめ返した先で宮橋とパチリと目があった。濡れた髪先から雫をこぼした彼が、キッチンカウンターからビール缶を掲げて見せてくる。