「本来の目、って?」

 何度試しても掴む事が出来ない美しい花弁から、雪弥は宮橋へと視線を移した。

「〝犬の目〟さ」

 まるで言葉遊びだ。

 そう思って見つめ返していると、宮橋が「行くよ」と踵を返した。雪弥は「あっ、待ってください」と慌てて後に続く。

「雪弥君、僕はこれから署に向かう。この件に関しては、L事件捜査係として警部に報告する必要がある。――口裏を合わせてもらうためにもね」
「はぁ、僕は別に構いませんが……」

 答えながら、チラリと後ろを見てしまう。しかし、そこにはもう、あの美しい幻のような花弁はなかった。

 目を戻せば、表情を戻して淡々としている宮橋の横顔があった。けれど気のせいか、前を見据える眼差しには、ふつふつと込み上げる激情を抑えているような印象もあった。

 一人の少女が、死んでしまったのか。

 あの日の、大学生の彼らと同じように。

 思い返して、知らず知らず手に拳を作った。先程の、命をなんだと思っているんだという風に怒っていた宮橋の気持ちが、少し分かるような気がした。