まるで着物の花柄が、そのまま形になったみたいだった。

 伸ばした雪弥の手に触れたのは、吹雪いて崩れていった大量の美しい花弁のようなモノが起こした風だった。それはあの着物と同じく、ぼんやりと発光しているような、優美な色の花を思わせた。

「完全に〝消費〟されたか……。ただの少女が、完全な鬼を、この世に具現化できるはずもないんだ」

 吹き起こった風に前髪がばさばさと揺れ、宮橋が目元を顰めながらそう言った。

 少女の形が、完全に失われると同時に、強い風はやんだ。

 ふと雪弥、はらはらと降ってくる花弁に気付いて掌を差し出した。受け取ろうとするものの、感触もなく、手を擦りぬけていく。

「宮橋さん、コレはなんですか?」

 雪弥が呟くように問うと、宮橋が同じくソレに目を留めた。

「――幻さ。ただの、まぼろし。触れられず、匂いもなく、存在していない物」
「まぼろし……僕には、そこにあるように見えます」
「見えるモノと、見えないモノの境界の片鱗とも言える。君は、本来の目を通して見られる」