「その奇妙な術を使ったのは、一体何者だ? 現存している生粋の魔術師は、僕だけのはずだ。魔術師は中立である事を定められている。だから君は、ここで僕を待っていたんだろう?」
「術印を刻む際に〝見えた〟苗字は、『門舞』。実に、奇妙な術を持つ異国交じりの血筋のモノだった」
「ふうん、門舞、ね……こちらの業界でも聞いたことがない一族だが、彼もまた〝渡ってきた古き一族〟、といったところか」
「我らとも関わりのある〝表十三家〟よりは、新しいだろう」

 少女が、言いながら木に深くもたれかかった。その顔には、とても穏やかな微笑みが浮かんでいた。

 それを見て、雪弥はどこかで聞いた『表十三家』という言葉を忘れた。宮橋も、奇妙なものを見るような目をしている。

「なんで微笑むんだ」
「安心したのだ。妾も〝母親〟だからの。こうして縁あった〝子〟らが、この娘の消滅を無駄にせず進んでくれる。それも、よい」

 すぅ、と彼女が次第に目を閉じていく。 

 あ、と思って、雪弥は咄嗟に手を伸ばしていた。――でも、間に合わなかった。

「さらばだ、この〝(うつつ)の世〟を生きる、数奇な子らよ」

 その言葉を紡いだ少女の姿が、一陣の強い風を巻き起こすと同時に、着物と一緒にざぁっと崩れて消えていった。