「大丈夫では、ないんですよ」

 雪弥は、気付いた時には一歩後退していた。

 何も〝大丈夫〟なものか。人を撃った兄は、とても何かを思っていた顔をしていた。でもそれを、自分はした事があったか?

 ――またしても途端に、色々とよく分からなくなる。

 でも、妙だ、とは感じた。比べてみても、こんな自分がそばにいてはいけないと思えるくらいには、兄達と自分が違っているとは思えた。

「あなたは、僕を知らないんだ。僕は――」
「君は〝エージェント〟という職業を必要とした。そして、君を引き入れた上司、それを認めて託した父親達の判断も正しい」

 唐突に、ぐいっと襟を掴まれた。

 目の前に、怒った宮橋の綺麗な顔が迫って、雪弥は目を丸くした。正直言うと、彼の心から怒って苛々している表情を、正面から見たのは初めてで少し驚いた。

「君は困惑しているな」
「困惑、ですか……?」
「そうさ、人間だからそれは当然さ。それでいて、君にとっては〝それが正常〟だからこそ、君は君のままで、自ら加減を学んでいかなければならないんだ」

 やや乱暴に離した宮橋が、続いて雪弥から少女へと目を向ける。