「あの、宮橋さ――」
「【青桜の母鬼】。この僕が、保証してやろう。言っておくが、ここにいる彼が〝あちら側〟に堕ちる事はない」

 立ち上がった宮橋が、スーツのポケットに片手を突っ込んで言い放った。

 少女が、鬼の目で宮橋を見上げた。

「あれらは、それを望んでいるようだった」
「それこそ、知ったこっちゃないね。人の運命ってのは、縁で変わるもんだ。そして僕は、一つお節介を焼くと今、決めた」

 宮橋は、はっきりと彼女にそう答えた。

 少女には、彼の考えているところが分かったらしい。じっくりと〝鬼の目〟で見つめた後、宮橋にこう言った。

「放っておいても、人は自分の運命を進む。それなのに、わざわざ手を引いてやるつもりだ、と?」
「遠回りするよりもいいさ、人間の生は短い。雪弥君は、だから大丈夫だよ」

 何が、『だから』だと言うのか。

 聞きながら頭の中に浮かんだのは、家族のことだった。そして自分は、あの普通の家族の中で、唯一異質なのだと、あの地下での一件が雪弥の中に蘇った。