「……君は、少女の方じゃない。まさか〝母鬼そのもの〟か?」
「そう。妾が――【青桜の母鬼】である」

 ああ人の世は、なんと眩しいこと。

 少女が、牙の覗く唇を開閉して声を発する。

 彼女の長い爪を持った指先が、絶句している宮橋の頬にかかる髪に触れた。雪弥はこんなにも動じている彼を見るのは初めてで、どう反応していいのか分からない。

「母鬼そのものが、ただの人間の少女に、蘇るはずが」

 ようやくといった様子で、宮橋が言葉を紡いだ。

「もうこの少女はもたなかった。〝境界線の世界〟で、魂はあっさりと崩れていった」
「魂が? なぜ、こんなにも早く。君が出てきたということは、もう彼女は完全に消えて、輪廻さえも――」
「落ち着け、童よ。だから妾が、あまりにも哀れに思い、最後肉体をこっちの世界へと連れてきてやったのだ。そして、この世に生き、関われるお前に伝えるために」

 少女の体で〝鬼〟が言う。