少女の瞳は、金色の獣の目をしていた。開いた口からは犬牙が覗き、手の爪はすっかり長い。

「完全な鬼は、こんなものじゃないよ」
「でも――」
「昨夜見た時より、想定以上に鬼化に進んでいるのは確かだ」

 認めるように言いながら、宮橋が少女の前に膝をついて視線の高さを合わる。

 昨日、戦闘をした時と違い、少女はひどくぼんやりとしていた。目の前にいる雪弥達さえ、よく認識出来ていないようだった。

「完全に人の部分が削られていなければ、人の世界に魂を引っ張り返す方法だってある」

 宮橋が、グッと拳を作り、またよく分からないことを言った。

 その時、ざぁっと風が吹き抜け、少女が不意にゆっくりと宮橋へ指を向けた。

「【精霊の取りかえ子】、残念ながら彼女は失われた。妾は、お前に会いに来た」

 その呼び掛けの言葉が、ぼんやりと水中にいるかのようにくぐもって、うまく認識ができない。

 雪弥は、訝って自分の耳を叩いた。よく分からない台詞だと思いながら目を向けてみると、宮橋が大きく目を見開いていた。