領分、と雪弥は彼の言葉を口の中で反芻した。一瞬頭を過ぎっていったのは、自分がいる特殊機関のこと。そして、兄のいる蒼緋蔵家だった。

「通常であれば、まだ完全には人としての存在を食われていないはずなんだ」

 入り組んだ道へと車を進ませながら、続け手宮橋がそう言ってきた。

 それは、まるで願うような口調にも聞こえた。

 でも彼は、もとより助からないことを予期しているみたいだった。雪弥はここにきて、これまであった彼の独白のような台詞が思い返された。

 気付けば車は、一軒家も多い住宅街を進んでいた。

 次第に道幅は狭くなり、隣合う家同士の狭い塀の間を行く。

 やがて雑草が茂った民家に辿り着いた。駐車場のアスファルトはひび割れ、囲う壁も劣化がひどく目立った。

「空き家みたいですね」

 雪弥は、停車したスポーツカーから下車したところで、少女が向かう先だというその場所を観察してそう述べた。都心の住宅街にしては、浮くような古い物件だ。