その言葉の意味が、今になってずしんっときた。

 先日の潜入先で死んだ、大学生のことが不意に雪弥の脳裏を過ぎっていったのだ。わけも分からぬまま、彼は死んでいった。

 ――一度、その薬を飲んでしまったら、元には戻れない。

 その前の日、同じ薬を服用した事でバケモノになってしまった大学生。特殊機関に回収された彼もまた、研究施設内で死亡が確認された。

「……鬼になったら、鬼として生きる事はできないんですか」

 小さな雪弥の問いが、ぽつりと車内に上がった。

 宮橋が、その横顔にチラリと視線を向けた。そして前へと目を戻しながら答える。

「人は、強い想いもなく〝怨みの鬼〟になるまい」
「何か、方法は」
「ない」

 スパッと宮橋が回答し、ハンドルを回した。

 青いスポーツカーが、信号から曲がって都心の道を進む。細い脇道へ一旦入ると、そちらを抜けて反対側の道路へ出た。

「僕も、そうであったらいいとは思う。でも、人は、その者が生きる領分でしか生きられないんだ」

 住宅街へと車を進めた宮橋が、やがてそう言った。