藤堂が運転席から、あわあわと口元に手をやった。

「うわ、めっちゃ痛そう……」
「バイクは助っ人だ! 実行犯は車なんだよバカタレが!」
「あ。昨日、僕がバカタレと言ったお返しか? いいだろう、お前もここで沈めてくれる」

 今にも二人の取っ組み合いが勃発しそうな気配を察知して、雪弥は慌てて両者の間に割って入った。

「すみません。それ、僕のせいなんです」
「あ? どういうことだよ」
「ほんとすみませんでした。あ、ちゃんと残りの四人も確保しますから」
「おいっ、待てよ新人!」

 三鬼が呼び止める中、雪弥は「ほんとごめんなさい」と柔らかな苦笑を返しつつ、走り出していた。

 ――と、前方へと視線を戻した雪弥は、黒いコンタクトの下を蒼く光らせると、一気に加速した。

 走行中の車の運転手たちが、追い抜いていった彼にギョッと目を向けた。雪弥は続いて跳躍すると、走る車の屋根を次々に踏み台にして前へと進む。

「すみません、ちょっと失礼します」

 車内の人間に声が聞こえるわけもないのに、雪弥は言いながら、軽くジョギングでもするかのようにどんどん逃走車との距離を縮めた。

 ――そして、あっという間に該当の普通乗用車の屋根に飛び乗った。