不意に、宮橋の表情からふっと力が抜けた。

 そんな風にすると、ますます三十代半ばには到底思えなかった。どこか西洋人の血を引いたような、ただただ綺麗な男に見えた。


「ああ、なんとも哀しい『犬』だねぇ」


 ぽつり、と彼が独り言を口にした。作り物みたいな明るいブラウンの目は、まるでこちらを通してずっと向こうを見ているかのようだった。

 前触れもない不思議な独白だ。気付いて見つめ返しているというのに、引き続きじっと何かを見ているかのような彼に、雪弥はきょとんとして手を止めた。

 そうしたら途端に、宮橋の目に強さが戻って顔が顰められた。

「おいコラ、手を止めるんじゃない。君、空腹だろう」
「えぇぇ……あの、食べないと動けないほどでは」

 食べ始めてようやく空腹感がじんわりと込み上げて程度で、心配されるレベルでもない。雪弥はそれを考えつつ、丼ぶりのおかずと白米をパクリと口に入れる。

「そもそも僕は、食べなくても動けますよ」
「それは君が鈍いだけさ。君の身体は、君が思っている以上にエネルギーを必要としている。だから、甘いものだろうと『馬鹿みたいに食べ続けられる』」

 言いながら、宮橋が頬杖を解いて珈琲カップを手に取った。指先の動きや仕草は品があって、それなりにしっかりと教育を受けてきた様子が見て取れた。